只見川ギャラリーのキューレーション
2021年6月14日
昨年夏にオープンした東北電力奥会津水力館の中の只見川ギャラリーのご紹介をさせて頂きます。
水力発電をテーマにしたギャラリーのキューレーションを当画廊にて担当致しました。
ずっとギャラリーなりの発表の方法を模索しておりましたが、東北電力のホームページでも綺麗な画像でご紹介頂いておりますので、まずはこちらのページをご覧頂きたく思います。
みかん組設計による建物の美しさは見事なものです。また、企画から内装の設計までを手掛けられた株式会社ムラヤマによるインテリアデザインのすっきりとした美しさは感動的です。
最初にプロデュース会社クロスフィットからこのお話を頂いてから4年という歳月が流れ、様々な問題点に突き当たる等しましたが、皆の力で乗り越えて、大きなクライアントとの仕事ですが本当に自由にお仕事させて頂きました。
展示作品は、「水源」、「川」、「発電施設」、「灯り」と、水源の水が集まり川となって、発電施設を経て、灯りが私たちの生活の現場へと訪れる過程を4コマに分けて企画し、テーマごとに何名かの作家さんにお願いし、絵画制作をして頂いたものです。
4年間という長い道のりを経て、作品の搬入が終了し、設置が完成した現場を見た時には、画廊での普段の仕事とはまた異なる達成感を感じました。
クライアントの方々、建築、内装デザイン担当の方々、プロデューサー、イラストレーター、ギャラリー、また額装、細かなチェックをされるキュレーターの方や山の奥地へと分け行って搬入される業者さん、実際に展示作業をして下さる方々・・、数えきれない様々な分野を担当する方と、このプロジェクトチームに参加している喜びと共に離れ難い連帯感を感じておりました。
共通の困難や喜びを分け合いながら一つの方向に向かって参りましたので、完成してからの感慨もひとしおです。
現地には東京から約半日かけてようやく到着するといった具合ですので、山々と雄大な只見川に囲まれた水力館は、まるで突然現れた夢のような場所に感じられます。中々やすやすとは辿り着けない場所ですので、皆様にぜひお出かけ下さいと言いづらいのですが、いつかぜひ見て頂きたいです。
途中、コロナという思いもかけない事柄が起こり、作家の方々、関係各位と共にお祝いもできませんでしたが、皆さんと一緒にプロジェクトチームを組み、一緒に仕事ができました事、本当に楽しかったです。
尚、当プロジェクトの中心となって制作コーディネーターとして全体のお仕事をまとめて下さった守内尚子さんに、文章をお寄せ頂きましたので以下にご紹介させて頂きます。
森と水と人が
只見川ギャラリー 制作コーディネート
やさしくきびしくつながり合う地に
アートが息づく空間がある。
株式会社クロスフィット 守内尚子
福島県は、日本の県の中で北海道、岩手に次いで面積が広い。その広い県を自然の地形が 3 つ のエリア、浜通り、中通り、会津地方に分けている。 会津地方を流れる只見川流域は「奥会津」と呼ばれ、初めてその地に向かった時は、その名の とおり、川に沿って森の奥へ、奥へと導かれていくようで、行けども行けども道の両側は山々 と川が寄り添ってくる。もうひとつ、川に寄り添う道は、只見線の線路だ。福島県の会津若松 駅と新潟県の小出駅を結ぶ秘境路線で、国内の鉄道マニアだけでなく海外からの観光客も増え てきて、道の駅には英語以外に中国語やタイ語など数か国語のパンフレットが並んでいて驚いた。
この地に、東北電力が奥会津水力館をつくり、その中にアートギャラリーを設ける。テーマは 「水源」「川」「水力発電施設」「灯り」。この計画に参加することになり、すぐにスペースユイ の木村秀代さんに会いに行った。 企画への理解を深めながら作家候補を絞り込み、作家さんたちへのレクチャーや現地取材を計 画するなどの準備作業中は、毎週のようにスペースユイに通った。制作段階に入ってからは作 品についてはすべて木村さんと作家さんに委ね、準備から展示まで 4 年間をかけて、16 点の 作品を奥会津に届けることができた。 さまざまな場面で的確なジャッジで作家をリードした木村さんおよびスペースユイ、それにこたえた作家のちから、そしてクライアントの思いや空間の設計施工側からの力強いサポートな ど、「只見川ギャラリー」には多くのちからが注ぎ込まれた。
忘れられないのは、2019 年の現地取材に同行したときのこと。参加メンバー最高齢の舟橋全二さんが、只見線の車窓から満面の笑顔で身を乗り出し、風景に目を見張っていらっしゃった 姿だ。舟橋さんがそのとき奥会津で受け取ったギフトは、1 枚の絵となってギャラリーの一角 で訪れる人を待っているのだ。
2020 年 7 月に開館してから 2 度、只見川ギャラリーを訪れた。1 度目は開館したばかりのとき で、計画通りにおさまった安堵感が大きかった。2 度目は 2022 年秋。そのときはどの絵も見 る人に語りかけているような感じがして、その心地良さに心が動いた。今度はどんな声をきかせてくれるだろうか。そんなふうに何度も訪れたくなる場所になってほ しいと願っている。
(2023 年 3月)